障害者支援施設
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緊急アピール

内部障害者(呼吸器障害等)は障害程度区分が正しく評価されない

東京都清瀬喜望園

1.はじめに
 当施設は、呼吸器、心臓、腎臓、直腸・ぼうこう等に障害のある内部障害者を主な受け入れ対象とした入所授産施設です。利用者の9割が肺結核の後遺症や肺気腫、間質性肺炎、慢性気管支炎等を原疾患とした呼吸機能障害者が占めており、うち7割の方が常時酸素吸入を必要としています。そして、そのうちの約15名の方が非侵襲的人工呼吸器(NIPPV)を併用しています。
 近年、高齢化と障害の重度重複化が進行し医療的ケアのニーズも高まり、「疾病と共存する内部障害者」への支援は、ますますその専門性と質が問われている状況になっております。
 そうした中、平成18年度より障害者自立支援法が施行され、新たな事業体系の仕組みと新たな障害程度区分の認定制度が作られました。
 現在当施設は新体系事業への移行に向けて準備を開始しておりますが、今般の障害程度区分の認定制度は、呼吸機能障害者(内部障害者)の障害程度や要支援度・要介護度、行動・活動の困難性等が正しく反映されるものになっていないと大変危惧しています。
 当施設でおこなった一次判定のシミュレーションにおいてもその点は顕著に現れており、おしなべて低区分の結果が出ており、このままでは利用者が希望するサービスを受けられない、今後の事業運営にも重大な支障が出てくる恐れがあると心配しています。酸素吸入を必用とする呼吸機能障害者の場合、特養等介護保険サービスを受けることが困難であり、また、医療機関への長期入院等も難しい状況にあっては、自立支援法での適正なサービス受給が必要であり、その為にも現在の障害程度区分の見直しは喫緊の課題と思われます。
 今回のアンケートにあたって、当施設からの回答は甚だ長文となりアンケートの趣旨からはずれはしないか一抹の不安もあるのですが、呼吸機能障害者(内部障害者)の実態にきちんと合致した適切な項目にぜひとも改めて頂きたいという思いから、敢えてこのような形で回答する次第です。行政各機関に対して改善の措置をとって頂くようはたらきかけていただければ幸いです
以下、当施設で最も入所割合の高い呼吸機能障害者を例にとって回答していきます。

2.呼吸機能障害者の特性
 呼吸機能障害者にとって今回の認定項目がいかに不十分であり、疑問点が多いかを述べる前に、呼吸機能障害の特性について簡潔に触れておきたいと思います。この特性に照らし合わせて、その不十分さや問題点が明らかになるからです。
呼吸機能障害を引き起こす原疾患は先にも述べたように多岐に渡っています。呼吸機能障害は疾病の概念では慢性呼吸不全という言い方がよくされます。慢性呼吸不全では息切れや呼吸の苦しさが顕著に表れることが特徴です。
 日常生活の中では、歩いたり体を動かしたりすると息が切れやすい、階段や坂道の登りが辛い、入浴は息苦しくて苦手、体をかがめての掃除や布団の上げ下ろしはできない等々、様々な面での制限が出てきます。一口で言えば「息切れや呼吸苦による行動制限・活動制限」が第一の特性です。
 加えて疾病が長期にわたることも特徴ですから、心臓への負担から心不全になりやすく(肺性心)、多臓器不全を引き起こすことも希ではありません。したがって、疾病と共存する障害、多臓器不全をひきおこしやすいなどの特徴から、医療的ケアの重要性、必要性が高いというのも特徴です。
 もう一点見逃せない点は「呼吸」という生命に直結する営みが長期に渡って障害を受けるために、精神的な不安が非常に強くなるという点です。慢性呼吸不全=呼吸機能障害を持つ人の、うつ病の罹患率の高さを指摘する専門家もいます。
 ところで、慢性呼吸不全の医学的判定の指標は、血液中で酸素と二酸化炭素のガス交換がスムーズに行なわれているか否かがポイントになります。動脈血中の酸素と二酸化炭素のガス分圧を測定することで慢性呼吸不全の診断を行うのですが、呼吸不全の状態を簡便に把握するためによく使われるのは血中酸素飽和度(SPO2)の測定です。血中酸素飽和度の低下は息切れや呼吸苦、呼吸困難を引き起こし、呼吸機能の低下を教えてくれ、安静が必要となり、行動制限・活動制限の大きな目安になります。この数値が低下すると歩行や移動、他の生活動作の制限が必要となり、掃除や洗濯、調理、入浴などの一連の動作ができなくなることがあります。また、低下した状態で行動や作業を続けると心臓その他への過大な負担を引き起こし、大きな健康被害を引き起こします。
【※血中酸素飽和度(SPO2)は、通常97〜100%です。一般的に90%より低下すると注意が必要とされます。】
 さて、こうした呼吸機能障害者にとって、酸素療法や非侵襲的人工呼吸器療法(NIPPV)は、呼吸リハビリや他の薬物療法と並んで治療の大きな柱のひとつになっています。冒頭でも述べましたが、当施設だけでなく在宅の呼吸機能障害者も数多くおこなっています。この療法により呼吸苦を軽減し、行動・活動範囲とQOLを拡大することが目指されています。
 酸素療法は医師の指示に基づき必要な時間、必要な量の酸素を投与し呼吸苦を軽減しますが、当施設では24時間の酸素吸入が一般的な状態です。また、NIPPVは、酸素吸入療法との併用で、強制換気により血中の二酸化炭素濃度を下げるという役目があり、睡眠中も含めて一日10時間前後の使用が一般的なスタイルです。
 しかし、酸素療法やNIPPVに要する機器はその管理を誤ると(酸素流量の間違い、酸素の出し忘れ、人工呼吸器装着の不備、器具の不具合等々)、生命の安全に直結しかねないものです。高齢になり徐々に機能が低下する、あるいは認知症その他で判断・認識能力が低下しているような場合では、医師の診断にもとづく適切な呼吸管理、酸素機器管理とその支援・見守り等が日常的に必要になってきている点が特徴です。

 以上、呼吸機能障害者の特性を述べてきましたが、これらを踏まえて現在の障害程度区分認定制度を見てみると、以下の章で述べるように極めて問題の多い制度になっています。
 以下の章では当施設の利用者の具体的事例を挙げ、障害の実態と障害程度区分のズレを明らかにし、続いて各項目毎に問題点と改善点を述べていきたいと思います。

3.当施設での事例
事例1
・重度の呼吸機能障害によりADLが極度に制限されているが、シミュレーションでは区分<2>にしかならないAさんの事例

 Aさんは、呼吸機能障害により高流量の酸素を24時間吸入しています。(安静時7リットル、体動時9リットル)
Aさんは歩行時の呼吸苦が強く酸素飽和度の低下が顕著であることにより、平成18年に身障補装具として電動車椅子の給付を受けています。麻痺や拘縮は無いので下肢の機能的には歩行は可能ですが、歩行をすることで障害の悪化を招き、あるいは生命の危険を伴うことになることが認められた結果です。
 その他、座位保持、ベッドと車椅子の移乗などにおいても行為をした直後は酸素飽和度の回復まで数分間の安静を必要としています。入浴、更衣、洗面など代行出来ない行為すべてにおいて同様のことが言え、通常の何倍もの時間を掛けながら、呼吸に合わせ、休憩を入れながら介助を行うことでADLが行われています。
 IADLに関しては「出来てもしてはいけない」と判断される内容です。
 ところが、機能的には動作可能と言うことで判断されてしまうものです。

事例2 
・認知症をもった重度呼吸機能障害者。酸素吸入が適切に行えないために生命の危険と隣り合わせの状態でも、認定区分<2>のBさんの事例 

 Bさんは重度の呼吸機能障害により24時間の酸素吸入(体動時1〜1.5リットル、安静時1.5〜2リットル)を必要としています。また、血液中の炭酸ガスを自力で排出することが困難で、高炭酸ガス血症による危険があるため、強制的に炭酸ガスを排出させるニップを医師の指示により睡眠中も含め1日9時間以上装着しています。
 Bさんは、近年認知症症状が現れ、酸素のカニューラが鼻からはずれていたり、酸素の出し忘れ、酸素の切り替えが出来ない、またボンベの酸素がなくなっていても気がつかないことも多くなり、職員が頻繁に酸素の流量や接続をチェックすることで、何とか必要な酸素吸入を維持しています。
 NIPPVに関しては、器械の装着や操作、見守りを職員が行っています。作動中でも装着していることを忘れてはずしてしまうことがあるなど、NIPPVそのものが理解出来なくなってきているとも言えます。Iさんにとっては酸素吸入やNIPPVが適切に出来ないことは、生命に直結する重大な問題で、単なる物忘れでは済まない事です。
 適切な酸素吸入やNIPPVの管理といった呼吸機能障害者にとって必要不可欠な事柄が、全く評価の対象にされていないことは大きな問題です。

事例3 
・長時間にわたるNIPPV装着により日常生活が著しく制限されているCさん、認定区分<2>の事例

 Cさんも24時間の酸素吸入を必要とし、事例2のBさんと同じように高炭酸ガス血症の危険があるため睡眠中も含め1日11時間のNIPPV装着を行っています。CさんはNIPPVの管理は自力でできていますが、1日に占めるNIPPV装着時間の割合が極端に多く装着時はベットから起き上がることができないため、他の日常生活に大きな影響を及ぼしています。例えば、食事や入浴、排泄さえもNIPPVの時間との調整が必要になります。
 Cさんは呼吸器以外には障害がありませんから、機能的には歩行も入浴も食事も可能と判断されてしまいますが、重度の呼吸機能障害者が残された時間で休み休み息を整えながらそれらを自力で行うことはあまりにも過酷なことです。趣味や生き甲斐の活動をしたくてもNIPPVの装着時間をはずして考えなければいけないため、活動時間が制限されていて生きがいのある生活をすることが難しくなっています。
 身体的な負担の軽減とともに有効な時間活用の意味からも、身辺の事柄に対する介助を行うことが必要と思われます。

事例4
・事例1、2、3より障害は軽度であるが、呼吸機能障害の特性ゆえ社会生活の基盤を成す一連の行動が制限されているDさん、認定区分<1>の事例

 Dさんは、呼吸機能障害により歩行時・体動時の酸素吸入の指示がでています。また原疾患である肺結核の後遺症のため喘息発作を起こしやすく、その治療のために長年使用した薬の副作用で、手指の振戦・骨粗鬆症など様々な問題を抱えています。また易感染性があり感染症による呼吸不全のため毎年1〜2回の入院を繰り返しています。
 施設内での生活では、掃除の介助や振戦による危険のための配膳介助など部分的な介助で生活は可能です。しかし在宅生活を想定した場合、買い物、外出、炊事、お風呂の準備と後かたづけなどといった行為は、歩く・お金を払う・野菜を洗うなどの一つひとつの動作は可能であっても、それらを一連の行為として完遂させ生活を維持出来るかどうかは全く別の次元と思われます。
食事が3食提供される、園内は基本的にフラットでありつまずくものはない、常に職員の目があり発熱や呼吸不全の初期症状のうちに適切に支援が提供出来るなどという一定の条件下でようやく成り立っている自立的な生活であることの評価を、どのように盛り込むのかが問われると思われます。

4.認定・評価と実態との乖離
現在の障害程度区分認定の問題点と改善点を、項目毎に記します。

A群


項目

評価の問題点
(以下の視点が反映されていない)

改善点

2-2

起き上がり

起き上がりをすると、血中酸素飽和度(SPO2)が低下し、呼吸苦になる。

麻痺・拘縮等の機能的に“できる・できない”の視点の評価ではなく、行うことによっての体への負担を含めて、評価する。

血中酸素飽和度(SPO2)が低下し、呼吸苦の為、介助行為が必要の場合があるので、実態に合わせた評価をすべき。

また、酸素飽和度(SPO2)がある一定以下になる場合は、できないと判断すべき。

2-3

座位保持

座位を保持していると、血中酸素飽和度(SPO2)が低下し、呼吸苦になる。

2-4

両足での立位

立位を維持していると、血中酸素飽和度(SPO2)が低下し、呼吸苦になる。

2-5

歩行

自力でできる、または身体機能的にできる場合でも、行うことによって、呼吸苦、血中酸素飽和度(SPO2)が低下することで生命の危機へつながるリスクが高い。

2-6

移乗

2-7

移動

同上。
電動車いすを利用しても、呼吸苦を軽減できない。

3-1

立ち上がり

機能的に行為は可能だが、実際に行為を行うことで、血中酸素飽和度(SPO2)が低下し、呼吸苦になる。
この為、要介助が望ましいケースが多い。

3-2

片足での立位

3-3

洗身

4-4

飲水

4-5

排尿

4-6

排便

4-3

食事摂取

呼吸苦があり、通常の食事摂取が難しい。食事をとると胃が重くなり、呼吸苦につながる。機能障害により、3食食べられないときもある。

B群


項目

評価の問題点
(以下の視点が反映されていない)

改善点

9-1

調理

部分的、内容によっては、自立してできる為、一連の行為として行えるように思えるが、実際は、呼吸苦、血中酸素飽和度(SPO2)低下のリスクが大きく、一連の行為として行うのは難しい。

呼吸機能障害の場合、一連の行為として行うのは難しいと評価すべき。

9-1調理は、酸素吸入者は、火を扱うと引火事故を起こす可能性が高く、調理そのものが危険。調理はできないと判断すべき場合が多い。

9-2

食事の配下膳

9-3

掃除

9-4

洗濯

9-5

入浴の準備片付け

9-6

買い物

判断能力はあるので、行為自体は可能だが、上記理由や酸素管理の必要により、単独での行為はリスクを伴う。

左記理由により、外出・移動行為も含めて判断すべき。

9-7

交通手段の利用

 上記の問題点を総括的にまとめると、

☆ 評価が低く判断される
 現在の判断基準では、A群項目の行為は可能と判断されるが、内部障害(呼吸機能障害)の特性ゆえ、実際の生活面では、活動領域・行動可能領域が狭く、B群項目では自立度が低くなる評価すべきだが、現在の基準では必ずしものそう判断されるとも限らない。
 この為、障害程度区分の評価が低く判断され、実態と乖離しているのではないか。

☆ 生活環境面で、大きく評価が変化する
 血中酸素飽和度(SPO2)低下・呼吸苦の可能性、酸素携帯(ボンベ500L・重量4kg、液体酸素・重量4.3kg)という生活では、施設であれば生活は可能だが、在宅での生活は困難。
・施設内等の平坦な場所であれば、ある程度、活動域は広げられるが、一般社会でのちょっとした
  傾斜であっても、障害特性ゆえ、活動域が狭まる。
・階段での移動は不可能だが、エレベーターを使用すれば可能 等。

 

5. 新たな評価項目の必要性
〜 酸素管理の評価と医療的ケアの必要性 〜 

 現在の障害程度区分認定には含まれていない、評価の視点を以下に記します。
 特に医療的ケアの問題については、調査票では「過去14日間に受けた医療」ということでまとめられていますが、呼吸機能障害者にとっては日常的に必要なケアであり、必要とされる介護や支援は多岐に渡っています。そのあたりは「過去14日間に受けた医療」と「医師意見書」だけでカバーすることは難しいと思われます。

(1)  酸素管理の重要性
 酸素管理は、一般の生活行為と違い、不具合が生じると、生命の危機につながる。生命維持上の大きな管理能力である。
酸素管理の項目としては、
a) 酸素流量の確認・調整
b) 酸素残量把握
c) ボンベ(交換)、液体酸素(充填、交換)
d) NIPPVの管理能力  等があるが、これらが評価される項目がない。

しかし、体力の低下、認識力の低下などで、
1.自力で、酸素ボンベの交換、液体酸素の充填・交換できない。
2.自分で酸素残量、流量がキチンと管理・把握できない。
3.NIPPVの装脱着、日常の管理ができない。また必要性を理解できず、行為を中断してしまう。
 と言った大きな問題がある。

(2)  医療的ケアの必要性
1.血中酸素飽和度(SPO2)が変化しやすく、定期的に測定、または不定期でも測定が必要であると
  いう理由が評価されていない。
2.酸素をただ吸っていれば良いとは言えない。酸素を吸いすぎると、炭酸ガスが高くなり、酸素管理 
 をきちんと行わなければならない。

(3)  酸素を吸うことでの制約
1.NIPPVを1日9時間行う、と言う行為に対しての評価。
   日中長時間行っていると、能力があっても生活行為そのものを行えない場面がある。
2.酸素(ボンベ500L・重量4kg、液体酸素・重量4.3kg)を携帯することで、行動範囲が狭まる。

以上